名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)3151号 判決 1988年9月30日
原告 牧野國太郎
<ほか一名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 加藤知明
被告 東海キャスター株式会社
右代表者代表取締役 富田幹男
右訴訟代理人弁護士 那須國宏
同 渡辺直樹
主文
一 被告は、原告牧野國太郎に対し、金四一〇万円及びこれに対する昭和五九年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告川原正春に対し、金二〇七万七一〇〇円及びこれに対する昭和五九年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、自転向車輪(キャスター)の製作及びこれに付帯する一切の事業を目的とする株式会社であるが、昭和五八年四月一五日開催の定時株主総会において、原告牧野國太郎(以下「原告牧野」という。)は同社の監査役に、原告川原正春(以下「原告川原」という。)は同社の取締役にそれぞれ選任されて就任した。
2 被告の定款によれば、取締役及び監査役の任期は、就任後二年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結時までとされ、また、被告の営業年度は毎年三月一日から翌年二月末日までの年一期であり、定時株主総会は営業年度末日の翌日から三か月以内に招集するものとされているが、計算書類に関する諸作業、手続等に要する期間を考慮すれば、定時株主総会の開催は、早くとも毎年四月以降になることが確実である。
したがって、原告らの予定の任期は少なくとも昭和六〇年四月の定時株主総会終結時までであった。
3 被告は、昭和五九年五月一〇日に開催された臨時株主総会において決議をなし、原告牧野を監査役から、同川原を取締役からそれぞれ解任した。
4 原告らは、右解任により、左のとおりの損害を被った。
(一) 原告牧野 金四一〇万円
(1) 監査役報酬 金三三〇万円
但し、監査役当時支給されていた月額金三〇万円に、解任後の昭和五九年六月から任期満了予定の同六〇年四月までの一一か月間を乗じたもの。
(2) 監査役賞与 金八〇万円
但し、前期支給額による。
以上合計金四一〇万円
(二) 原告川原 金二〇七万七一〇〇円
(1) 取締役報酬 金一八二万七一〇〇円
但し、使用人兼務取締役当時支給されていた月額金四五万円と取締役解任後の使用人としての基本給月額金二八万三九〇〇円との差額月額金一六万六一〇〇円に、解任後の昭和五九年六月から任期満了予定の同六〇年四月までの一一か月間を乗じたもの。
(2) 取締役賞与 金二五万円
但し、昭和五九年冬の賞与につき、使用人兼務取締役当時の給与に基づけば支給される見込の金九五万円と、使用人としての賞与見込額金八〇万円との差額金一五万円に、毎年、定時株主総会後に支給される取締役賞与金一〇万円(前期と同額)を加えたもの。
以上合計金二〇七万七一〇〇円
よって、被告に対し、原告牧野は、商法二八〇条一項、二五七条一項但書に基づく損害賠償として金四一〇万円、原告川原は、同法二五七条一項但書に基づく損害賠償として金二〇七万七一〇〇円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年一〇月三〇日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実は認める。
4 同4の事実のうち、原告牧野の監査役当時の報酬が月額金三〇万円であったこと、前期の監査役賞与が金八〇万円であったこと、同川原の使用人兼務取締役当時の報酬が月額金四五万円であり、取締役解任後の使用人としての基本給月額が金二八万三九〇〇円であって、その差額が金一六万六一〇〇円であることはいずれも認めるが、その余は争う。
三 抗弁
原告らの解任については、以下のとおり正当の事由が存在する。
1 原告らの経営権確保を目的とする突然の大幅な新株発行
(一) 被告は、昭和五八年八月二九日開催の取締役会において、一株一五〇〇円による三万株の新株発行を株主割当てにより行い、四五〇〇万円の増資を行うことを決定し、同年九月一日、全株主に対し払込期日を同月一六日と定めて右新株発行の通知をなした。右払込期日は、後日、同月二〇日と変更された。
(二) 右新株発行の決定は、被告の株主に相談せず抜き打ち的に実行することにより、失権株を生じさせ、これを役員が取得することによって役員の持ち株を増加させ、経営権の安定を図ろうとする目的のため、原告牧野の主導でなされ、これに同川原が協力したものである。
2 原告牧野の独善的越権行為
原告牧野は、被告の監査役であって、本来会計監査の職務権限を有するに過ぎないにもかかわらず、自らが被告及び訴外東海キャスター販売株式会社(以下「キャスター販売」という。)の全取締役より絶対的に多くの株式を有する大株主であり、かつ被告の創始者の一人であり、年長でもあることを嵩にかけ、その職務権限を越えて、次のような越権的言動をなし、両社の組織・秩序を混乱させた。
(一) 監査役就任後の昭和五八年六月中頃、被告の外注業者たる有限会社大笹工業所、同原田精工等を原告川原と二名で挨拶回りし、「次期社長は川原」との発言をなした。
(二) 被告の役員報酬を決定するにあたり、自らの報酬に関する意見のみならず、取締役を含めた全役員の報酬を提案した。
(三) 昭和五八年六月一七日開催の被告及びキャスター販売の合同役員会において、これに先立つキャスター販売の株主総会において選任された取締役中から、訴外服部和雄(以下「服部」という。)を同社の代表取締役に選任するにつき、一人だけ、持株が少なく対外的に信用がないとの理由でこれに反対し、かつ、これに引き続く同人の報酬決定についても異議を述べた。
(四) 昭和五八年六月二〇日頃の合同役員会において、被告代表取締役富田幹男(以下「富田」という。)とキャスター販売代表取締役服部とが、事前の打合せにより、当年度売上目標につき、八億円弱の提案をしたところ、原告牧野は、これに対し一〇億円を目標にすべきと主張し、労働組合との交渉事項を議題として同年七月に開催された合同役員会において、議題外と考え、一〇億円目標の三か年計画を持参しなかった服部を叱責し、これを取りに行かせ提出させた。
(五) 昭和五八年六月末又は七月初め頃、キャスター販売の大阪営業所に赴き、同所長に対し、三〇円から五〇円値引きしてでも売上げを増大させるよう、また、詳しい単価のことは服部には判らないから、原告川原に聞けと直接の業務上の指示をなし、右のように指示した旨を同年七月開催の合同役員会で発表した。
(六) 被告は、要所要所のみの最低限の工場改修を計画していたところ、原告牧野は直すなら本格的に改修したらよいと述べ、結局右改修は本格的なものとなった。
3 原告川原の独善的越権行為
原告川原も、次のような越権行為をなし、これにより、被告及びキャスター販売の組織・秩序を混乱させた。
(一) 昭和五八年六月中頃、原告牧野と共に、前記2(一)のような挨拶回りをなした。
(二) 昭和五八年八月中頃、キャスター販売の取引先である岡本工機より、サンプルに基づく特注商品の見積依頼がなされたので、キャスター販売は、被告に製造価格の見積をさせ、五四〇円の販売見積価格を岡本工機に連絡したところ、原告川原において、既に五〇〇円という見積価格をキャスター販売に無断で連絡していたため、信頼喪失のおそれを生じた。
(三) キャスター販売は、興和工業所に対してゼロックス向けのキャスターを特別価格二八〇円で販売していたところ、これが終了し、新たにIBM向けに同一商品の購入申込がなされたので、服部はこれを機に三四〇円くらいに価格変更をしようと考えていたところ、原告川原が服部に無断で同一価格でよいと回答をしていたため、やむを得ず、話し合いの末、三〇〇円で販売せざるを得なくなった。
(四) 原告川原は、キャスター販売大阪営業所に対し、松下電器向けのキャスターにつき直接業務上の指示をなしたため、服部は同所長から苦情を受けるに至った。
(五) 原告川原は、昭和五八年三月までキャスター販売に営業マンとして勤務していたところ、その間に顧客より受領していた名刺のファイルを被告への異動にあたって持出し、再々の請求にもかかわらず返還しないため、キャスター販売は営業上の支障を生じている。
4 原告らの以上のような会社組織を混乱させる新株発行及び独善的越権行為は、被告の株主の信頼感を喪失させるものであり、また、株主及び会社に有形・無形の損害を与えているものであるから、本件解任には正当事由が存するといわねばならない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1のうち、(一)の事実は認め、(二)の事実は否認する。
新株発行は、被告の資本充実・設備資金の調達を目的として、取締役会の決定に基づいてなされたものである。
2 同2について
(一) (一)の事実は否認する。
(二) (二)のうち、原告牧野が自らの報酬に関する意見を述べた点は認めるが、その余の事実は否認する。
(三) (三)の事実は否認する。原告牧野は、服部がまだ若いので、「一期だけやりなさいよ。後は変わるかも分からんよ。」と述べただけであり、越権的言動とはほど遠いものである。
(四) (四)のうち、原告牧野が一〇億円の売上を目標にすべきであると発言したことは認めるが、合同役員会は率直に意見を述べあう場であり、これを越権的というのは的外れである。
(五) (五)の事実は否認する。原告牧野は、キャスター販売の大阪営業所を訪れた際、同営業所長の相談に乗っただけであり、特別な指示をしたこともないし、合同役員会でその旨発表したこともない。
(六) (六)の事実は否認する。工場改修は見積りを出した業者に請負わせただけで、原告牧野と何の関係もない。
3 同3について
(一) (一)の事実は否認する。
(二) (二)及び(三)のうち、原告川原が取引先に対し販売見積価格を述べたことはあるが、これは、キャスター販売の営業担当者がいないときに取引先から電話があり事務員では応対できず困っていたので、原告川原が呼び出されて電話の応対をし、キャスター販売の価格表に基づいて応答しただけである。
(三) (四)の事実は否認する。
(四) (五)のうち、原告川原がキャスター販売の顧客の名刺ファイルを被告への異動にあたって持出したことは認めるが、右は原告川原の私物であって返還すべきものではなく、かつ、キャスター販売には顧客名簿があるので、右ファイルがなくとも同社の営業には支障がない。
4 同4は争う。
解任の正当事由とは、取締役ないし監査役に職務を行わしめるにあたり、客観的に障害となるべき状況が生じた場合をいうのであり、被告主張のような株主の信頼感の喪失などという主観的事由をもって正当事由ということはできない。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1(原告らの役員就任)、2(予定任期)及び3(原告らの解任)の事実については、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁について判断する。
1 抗弁1(一)の事実(新株発行の決定等)については、当事者間に争いがない。
2 同(二)の事実について判断する。
(一) 《証拠省略》を総合すると、本件新株発行に際し、原告牧野を除く被告の他の大株主に対し、事前の説明がなされていなかったこと、割当てられた新株を引受けるためには相当多額の資金を要するため、その準備ができなかったり、苦労をさせられた株主がいたこと、原告牧野は、被告の役員会において笠原春一らの大株主に事前に相談すると反対されるから、話さないで新株発行を実行した方がよい旨述べていたこと、昭和五八年八月ころ、原告ら及び富田、竹田が鬼頭会計事務所に赴いた際、原告牧野が増資によって実権を握る方法について相談をしたこと、鬼頭税理士から、失権株を役員が引受けることにより経営権を確保しうることや、第三者割当ての方法による新株発行について説明を受けたが、検討の結果第三者割当ては実施困難ということで、結局、株主割当てによる新株発行を実施することになったものであり、したがって経営権の確保という目的は後退したこと、最終的に生じた失権株は一五〇株にとどまったことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 他方、《証拠省略》を総合すると、被告は、当時樹脂工場内製化のために資金調達の必要性が生じつつあったこと、新株一株あたりの発行価格は一五〇〇円と、当時の株主間の慣行的な取引価格であり、特に失権株が生じるのを意図して高額にしたものとはいえないこと、本件新株発行が被告の資本充実にもつながり、不利益をもたらしてはいないこと、原告ら解任後も被告は樹脂工場内製化をすすめていることがそれぞれ認められる。
(三) さらに、《証拠省略》を総合すると、原告牧野の言動が被告の役員会において相当の影響力を持っていたことはうかがえるものの、原告牧野は監査役の地位にあるにすぎず、本件新株発行の決定は、代表取締役富田、取締役竹田を含めた取締役会によりなされたものであることが認められるから、新株発行を原告らの独断専行の如く評価するのは相当ではない。
(四) 以上の事実に照らすと、本件新株発行が笠原春一ら被告の大株主の信頼感を喪失させるに足りる行為であったことは認められるものの、そのことのみでは原告らの解任について正当事由があるものとは認めることはできないといわざるをえない。
3 抗弁2の事実(原告牧野の独善的越権行為)について判断する。
(一) 抗弁2(一)の被告主張に沿う《証拠省略》が存するけれども、右各書証(陳述書)は作成者が異なるのに文言が全く一致しており、被告の作為がうかがわれるほか、原告牧野及び同川原の各供述に照らして直ちに採用することはできないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
(二) 同(二)の事実は、これを認めるに足りる的確な証拠がないし、被告主張の事実程度では、これを解任の事由に結びつけるには不十分というべきである。
(三) 同(三)ないし(五)の各事実は、《証拠省略》により(ただし、原告牧野が一〇億円の売上を目標にすべきであると発言したことは当事者間に争いがない。)、また、同(六)の事実は《証拠省略》により、いずれもこれを認めることができ(る。)《証拠判断省略》
(四) しかし、《証拠省略》によれば、被告とキャスター販売とは、その株主構成や資金関係、人事関係等で、きわめて密接な関係にあり、共通の利害関係を有する側面があるものと認められる。
また、《証拠省略》によれば、キャスター販売の経営権について、昭和五七年当時代表取締役であった笠原春一と原告牧野及び平信との間に勢力争いがあり、昭和五八年二月に裁判上の和解が成立したものの、その後もそのしこりが残っており(なお、その後の情勢の変化により、平信は笠原春一と共同歩調をとるようになった。)、前記新株発行を契機に被告の大株主である笠原春一及び平信らは、原告牧野に対する不信感をつのらせていたことが認められる。
右認定の各事実にかんがみると、原告牧野の抗弁2(三)ないし(六)の言動は、被告の監査役という地位にある者としては必ずしも適切ではなく、右大株主らの信頼感を喪失させるに足りる行為であったとしても、キャスター販売と被告との合同役員会における原告牧野のキャスター販売に関する言動は、合同役員会という意見交換の場においてはあながち無理からぬ面もないではなく、むしろ、原告牧野に不信感をつのらせた前記大株主らが、同原告の言動を実質以上に過大に取り上げ、非難しているものともいえよう。
(五) 以上の事実関係を総合して判断すると、原告牧野の前記言動が笠原春一ら被告の大株主の信頼感を喪失させるに足りる行為であったことは認められるものの、そのことのみでは、同原告の解任について正当事由があるものとは認めることはできない。
4 抗弁3の事実(原告川原の独善的越権行為)について判断する。
(一) 抗弁3(一)の事実は、前記3(一)と同様の理由で、これを認めることはできない。
(二) 同(二)ないし(四)の各事実は、《証拠省略》により、いずれもこれを認めることができ(る。)《証拠判断省略》
(三) 同(五)のうち、原告川原がキャスター販売の顧客の名刺ファイルを被告への異動にあたって持ち出したことは当事者間に争いがない。そして、証人服部和雄の証言及び原告川原の供述を対比して検討すると、右名刺ファイルが原告川原の私物であるとの同原告の主張は採用できないが、右名刺ファイルがなければ営業上の支障が生じるとの服部の主張もまた採用することができない。
(四) そして、被告とキャスター販売との前認定の密接な企業間関係を考慮すると、原告川原のなした前記各言動は、必ずしも適切でない面はあったとはいえ、前記のとおり同原告が以前キャスター販売に勤務していたことからすれば、キャスター販売の取引先との応接を行うこともあながち無理からぬ面もないではなく、また、いずれも一過的なものであって、前記各言動のみでは、同原告の解任について正当事由があるものと認めることはできない。
5 以上にみたとおり、前記新株発行及び原告らの言動には、被告の株主の信頼感を喪失させるものが含まれているといえるが、それらを考慮しても、原告牧野が監査役として、同川原が取締役としてそれぞれ適格を欠くとか、あるいは客観的に職務遂行が不可能であるとか障害があると認めるに足りる的確な証拠はないといわざるをえない。
したがって、被告の抗弁は理由がない。
三 請求原因4について判断する。
1 以上検討したところによれば、結局、原告らの解任には正当な事由がないというほかなく、任期途中に解任という手段で原告らを役員から排除した以上、その代償として、被告は、原告らに対し、右解任により原告らの被った損害を賠償しなければならない。
2 請求原因4(一)(原告牧野の損害)について
(一) 原告牧野の監査役当時の報酬が月額金三〇万円であったこと、同人の予定の任期が昭和六〇年四月の定時株主総会終結時までであることは当事者間に争いがない。
したがって、監査役報酬分として、原告牧野が被った損害は、月額金三〇万円に、解任後の昭和五九年六月から同六〇年四月までの一一か月間を乗じた金三三〇万円と算定できる。
(二) 原告牧野の前期の監査役賞与が金八〇万円であったことは当事者間に争いがない。
そして、役員賞与は、利益のあるときのみ、利益金の中から支給されるものであり、その支給は、利益金処分として当然株主総会の決議を要するものであるが、役員賞与も役員として受ける所得の一種として考えられるところ、《証拠省略》によれば、被告会社では、夏と冬とで同額の役員賞与が支給されており、またこの間の被告会社の業績悪化等の事情も窺われないのであるから、原告牧野が監査役にとどまっていれば、金八〇万円の役員賞与を取得できたと推認され、同人は、その解任により、同額の損害を受けたと認められる。
(三) 以上により、原告牧野の本件解任による損害は合計金四一〇万円と認定できる。
3 請求原因4(二)(原告川原の損害)について
(一) 原告川原の取締役当時の報酬が月額金四五万円であり、取締役解任後の使用人としての基本給月額が金二八万三九〇〇円であって、その差額が一六万六一〇〇円であること、同人の予定の任期が昭和六〇年四月の定時株主総会終結時までであることは当事者間に争いがない。
したがって、取締役報酬分として、原告川原が被った損害は、差額月額金一六万六一〇〇円に、解任後の昭和五九年六月から同六〇年四月までの一一か月間を乗じた金一八二万七一〇〇円と算定できる。
(二) 前述のように、役員賞与も解任に伴う損害と考えるべきところ、原告川原が、昭和五九年冬の賞与につき、使用人兼務取締役当時の給与に基づけば支給される見込の金額が金九五万円であること、使用人としての賞与見込額が金八〇万円であり、その差額が金一五万円であること、毎年、定時株主総会後に支給される取締役賞与が昭和五九年四月の総会では金一〇万円であり、同六〇年四月にも同様に支給される見込であったことは、いずれも《証拠省略》によって、これを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって、原告川原の取締役賞与に関する損害は、計金二五万円と認められる。
(三) 以上により、原告川原の本件解任による損害は、合計金二〇七万七一〇〇円と認定できる。
四 結論
以上の次第で、原告らの本訴請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 芝田俊文)